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セキュリティマガジン TREND PARK

事業競争力を支える次世代の総合セキュリティカンファレンス 「Direction 2011」レポート


企業が知識を創造するためのポイントは暗黙知と形式知にあります。暗黙知は、言葉や文章で表現することが難しい主観的・身体的な経験知を指します。一方の形式知は、言葉や文章で表現できる客観的・理性的な言語による知です。新たな知の源泉となる個人の暗黙知を形式知へ、形式知を暗黙知へと螺旋状に変換していくプロセスの中で知識が創造されていきます。

知識創造の結果を利益に結びつけていくことは企業の命題です。利益を持続的に獲得していく仕組みがない限り企業は存続できません。この中では、自社にしか提供できない価値という知を利潤に変換するビジネスモデルが極めて重要になります。具体的には、顧客に「モノ」を売るという発想を脱却し、顧客に感動経験を与える「コト」をサービスとして提供するという思想を持つことが求められます。野中氏は、「たとえば、iPodはネットワーク経由で好きな曲を取り込んで容易に加工・編集し、マルチメディアの視聴体験を与えるというコトを生み出して成功を収めたビジネスモデルです。こうしたコトの価値を提供するモノとしてiPodは存在します」と話します。

ビジネスモデルのイノベーションでは、モノの背後にある関係性や文脈をもとにコトを洞察すること、将来にわたる企業の存在意義を示す絶対的なビジョンを描くことが極めて重要です。ビジネスモデルは論理・分析的なアプローチによって導き出すことはできません。適切な価値命題を掲げるビジネスモデルを組織に組み込むカギは、1人ひとりの主観をぶつけ合い、他者との共振・共感・共鳴によって個人の暗黙知を組織全体の暗黙知にする相互主観性の域に到達することです。これが信念、理想、夢といった個人の主観を超えた革新的かつ客観的なビジネスモデルを創出します。

また知識創造体である企業の要は、絶えず新たな知を生み出していくリーダーシップです。その根幹にあるのは古代ギリシアの哲学者アリストテレスが提唱し、「賢慮」や「実践知」と訳されるフロネシスです。フロネシスは絶えず移り変わる状況や文脈の中で、最善の判断・行動のできる実践的な知を指します。フロネシスを伴うリーダーシップの条件としては、"善い目的を設定すること"、"他者と文脈や目的を共有する場を醸成すること"、"現場で本質を直観すること"、"直観した本質を概念化し表現すること"、"概念を実現すること"、"自らの実践知を伝承し、組織に組み込むこと"の6つの能力が求められます。

野中氏は、「トップダウンの経営からコラボレーションとチームワークをベースにした経営へと移行し、個人に備わる賢慮を実践の中で組織全体に伝承しようとする動きが世界中で加速しています。不確実性の高い21世紀の競争を勝ち抜く企業には、不断のイノベーションにつなげていく知識創造プロセスを効果的に組み込み、組織的な実践知経営を実施するための基盤を整備することが求められるのです」と話し、講演を締めくくりました。

記事公開日 : 2011.08.16

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